【医師が教える】常在菌が頭皮を守る? 菌が頭皮に与える影響とは
皮膚には「常在菌」が存在し、さまざまな外的ダメージから皮膚を守っています。“菌”というと悪い働きをするものと思われがちですが、皮膚や頭皮に潜んでいる常在菌はバリア機能を担っているため、人体には欠かせないものです。
しかし、無数に存在する常在菌はバランスが崩れると頭皮環境の悪化やかゆみ、フケなどさまざまな問題を起こしかねません。そのままにしておくと正常な育毛が妨げられ、髪の毛の成長に悪影響をもたらす可能性も……。今回のAGAタイムスでは、そんな常在菌の働きや髪の毛への影響について紹介していきます。
頭皮に潜む「常在菌」とは
〇常在菌について
常在菌は人の体に存在し、人類と共生している微生物です。主に皮膚や粘膜などに存在しており、体のバリア機能を保つ役割を担っています。その中でも皮膚上に生息している細菌のことを皮膚常在菌といいます。皮膚表面には約200種類以上もの菌属、種にすると1,000種相当の常在菌が存在するといわれています。
皮膚表面に生息する常在菌の主な種類としては、表皮ブドウ球菌、アクネ桿菌(かんきん)、黄色ブドウ球菌、マラセチア菌など。主に汗や皮脂などをエサにして生息しています。
〇常在菌のバリア機能
常在菌は正常なバランスを保っていれば人体に害を与えることはありません。むしろ病原体の侵入や紫外線から皮膚を保護するなど、さまざまな外的刺激から守ってくれる役割があります。
皮膚常在菌の一種である「表皮ブドウ球菌」は汗や皮脂をエサにしてグリセリンや脂肪酸を生成し、グリセリンによってうるおいを保つことで皮膚のバリア機能を保ちます。また脂肪酸は肌のpH値を弱酸性に保ち、抗菌ペプチドを生み出すことで「黄色ブドウ球菌」の増殖を防ぎます。
黄色ブドウ球菌は存在しているだけでは問題ありませんが、皮膚がアルカリ性に傾くと増殖して皮膚炎などを引き起こしてしまう厄介者です。化膿性疾患の代表的起因菌であり、傷を受けた皮膚を放置すると膿んで悪化してしまうのもこの黄色ブドウ球菌などの仕業です。このような理由から、過度な増殖を防ぐ必要のある菌といえるでしょう。
ニキビの原因になるなど一般的には悪いイメージを持たれることが多い「アクネ桿菌」も、実は皮膚のバリア機能の一端を担っています。アクネ桿菌は汗や皮脂を食べてグリセリンや脂肪酸、プロピオン酸をつくり、肌を弱酸性に保ちます。表皮ブドウ球菌とともに、皮膚がアルカリ性になると増殖して皮膚炎などを引き起こす黄色ブドウ球菌の増殖を抑えるなど、皮膚の健康維持に貢献しているのです。
常在菌による頭皮トラブル
ここまでに説明したように体に良い影響をもたらすことも多い常在菌ですが、何らかの影響で菌叢(きんそう)のバランスが崩れてしまうとさまざまなトラブルにつながります。とくに頭皮は皮脂腺や汗腺の数が多く、他の部位の皮膚と比べて皮脂・汗の分泌量が多いこと、また髪で覆われているため蒸れやすい、目視しづらいため洗髪時に皮脂や汗を洗い残すことが多いなどの理由から、他の皮膚よりもトラブルを起こしやすくなるといわれています。
常在菌のバランスが崩れることで起こる主な頭皮トラブルは、かゆみやべたつき、嫌なニオイ、ニキビなどです。常在菌によって皮脂や汗が分解されたり、酸化させられることで発生する脂肪酸やアルデヒドの影響で引き起こされます。
また、この他にもフケ症などが常在菌による頭皮トラブルとして挙げられます。フケが起こる原因はいくつかありますが、頭部に生息する常在菌「マラセチア真菌」が関与して起きるフケ症は「脂漏性皮膚炎」の初期症状である可能性があります。
脂漏性皮膚炎は乾燥した、または脂ぎったうろこ状のフケが生じ、かゆみを感じることもあり、ひどくなると黄色から赤みがかった鱗屑(りんせつ)を伴う隆起が見られます。直接的に薄毛が発生する症状ではありませんが、炎症部分が気になっていじってしまったり、かゆみのある部分をかきむしってしまうことで抜け毛が起こる可能性はあります。
脂漏性皮膚炎は治療が長期化しやすく、しばらく皮膚の炎症が続くので、このような習慣が長期間続くことで間接的に薄毛を助長させることも考えられる疾患です。
株式会社 資生堂における皮膚常在菌の研究では、肌水分量が多く赤みが少ない健常肌に比べて、敏感肌の菌叢はアクネ桿菌に対して表皮ブドウ球菌の割合が低いことが分かっています。このことからも、肌の健康状態において常在菌のバランスがいかに重要かが分かります。
同社では、このような解析結果を踏まえて新たなソリューション開発も行われており、今後の美容業界においては“常在菌”が重要なキーワードになるかもしれません。
頭皮の常在菌の均衡が保てなくなることで、さまざまな問題が起こることが分かりました。では、なぜ常在菌のバランスは崩れてしまうのでしょうか。常在菌によって頭皮トラブルが生じるそもそもの原因について、次項から見ていきましょう。
常在菌のバランスが崩れる原因
頭皮は通常は特別なケアを必要としませんが、健康状態の悪化、食事や睡眠など生活習慣の乱れ、精神的ストレス、皮脂成分・分泌量の変化など、何らかの要因によって頭皮環境が変わることでしばしば菌叢のバランスが乱れやすくなります。
例えば、頭皮や髪の毛を清潔に保てていない状態が続くこと。洗髪しない状態が続くと頭皮の皮脂量が増え、常在菌がそれをエサとして異常繁殖することがあります。常在菌が異常繁殖すると頭皮に多く残った皮脂が酸化し、かゆみや嫌なニオイ、ニキビなどを引き起こしかねません。
また反対に1日に何度も洗髪したり、洗浄力の強すぎるシャンプーを使用するなど、過度な洗浄でも頭皮の菌叢バランスは崩れます。頭皮を健康的に保つために必要な皮脂や常在菌が減りすぎてしまうことで、頭皮は乾燥して免疫力が下がり、ターンオーバーのリズムが乱れてしまうことも。さらに、人によっては頭皮の乾燥により過剰な皮脂の分泌を招くこともあります。
その他にも、シャンプーの後に髪を乾かさず濡れたままの状態でいると菌が繁殖しやすくなるため、フケやかゆみ、嫌なニオイに繋がりやすくなるといわれています。濡れたままの髪の毛で枕が濡れてしまうと頭部が長時間湿った状態になるので、菌が大繁殖する可能性も。そのため特に就寝前に洗髪をした際は、ドライヤーでしっかり乾かすよう気をつける必要があるでしょう。
健やかな頭皮環境をキープするためには、ここまでに紹介したような菌叢のバランスを乱す原因となる習慣や状態に注意し、常在菌と上手につき合っていくことが大切です。
頭皮のトラブルは専門の病院へ
皮膚に存在する常在菌には、さまざまな外的刺激から頭皮を守ってくれる大切な役割があることが分かりました。しかし、菌叢のバランスが崩れると頭皮トラブルの原因にもなりかねないため、正常の範囲でその均整を保つことが重要です。そのためにもヘアケア習慣や生活習慣の見直しは大切になるでしょう。
適度な常在菌の維持は頭皮トラブルを防ぐためだけでなく、すこやかな育毛を促すためにも有効です。しかし万が一、頭皮トラブルの症状が悪化したり長期間改善しないようであれば、常在菌バランスの乱れを整えるだけでは補えない問題に発展しているかもしれません。その際は早めに皮膚科などの専門機関で診てもらい、治療にかかることをおすすめいたします。
頭皮のトラブルと同時に「抜け毛や薄毛が気になる」という方は、薄毛治療の専門病院に相談してみるのもよいでしょう。AGAヘアクリニックでは、診察・カウンセリングを無料で実施しています。患者さまお一人おひとりにあった治療方針を提案し、薄毛の進行状況に合った治療薬を処方しているため「薄毛治療の専門病院は初めて」という方も安心してご相談いただけます。ぜひ一度、当院に足を運んでみてください。
出典・参考URL
- 目に見えないヒト常在菌叢のネットワークをのぞく - 宇宙航空研究開発機構 宇宙飛行士運用技術部 宇宙医学生物学研究室 太田 敏子
- 皮膚の常在細菌について - 東京医療保険大学 大学院 医療保健学研究科 吉田 理香
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) - 食品衛生の窓 東京都福祉保健局
- 体にいる数百兆個以上の微生物は健康を守ってくれるパートナー - 国立大学法人 長崎大学
- 皮膚・頭皮の構造と働き ~頭皮トラブルはなぜ起きる?~ - LebeL タカラベルモント株式会社
- 頭皮と菌 - ヘアケアサイト 花王株式会社
- 脂漏性皮膚炎 - MSDマニュアル家庭版
- 脂漏性皮膚炎って、どんな病気? - マルホ株式会社
- 資生堂、敏感肌では皮膚常在菌叢の多様性が低いことを発見 - 株式会社 資生堂
- 教えて!美肌菌の秘密 - d program 株式会社 資生堂
- イソマルトオリゴ糖含有皮膚常在菌叢改善剤 公開特許公報 - 一丸ファルコス株式会社,株式会社林原生物化学研究所
- 脂漏性皮膚炎とは - 田辺三菱製薬
- 頭皮が臭い、その原因と対策 - 大正製薬株式会社
- ふけ・頭のかゆみの原因 - 第一三共ヘルスケア株式会社
- 濡れた髪は頭皮にダメージを与えるの? - プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン